【0】1991年


 <文章> −1  <体験> +1   <得点> 0


 霊と体験者の意識が同化してしまった、という話である。これは
種々の怪談中に時折ある話でそれ自体新鮮味はない。
 ただ、ここでは霊に意識を支配されたような形で行動まで
起こしている。それは一歩レベルが高い。


 もっとも話の落とし方には疑問も残る。
 この話では冒頭書いたように意識の同化が起こっている。
 そして、クライマックスで男子学生が呼んだのは「久子」。
 とすると、この段階では本人が姿を見せたのではなく、霊だけが
ある程度分離して出ていった、と考えた方が自然だ。
 だから締めの文章はかなりピントがずれた発言である、と言える
だろう。


 また、紺ブレザーにソバージュ、というファッションだったので
時代について詳しく語り題名もそうしたのだろうけれど、この怪談の
本質はそんなところにはない。別にどんな服で髪型であっても
全く問題なく成立する内容だ。この時代と特別に寄り添った怪異でも
ない。
 著者としての懐かしさなのかもしれないけれど、それが内容を
引き立てない道具立ては出来るだけ控え目に使っていかねば、本編の
印象を薄めてしまうだけだ。